企業規模別労務監査的アプローチ 終了後その1 労務コンプライアンス調査(通算第19回)
労務監査の(芳しくない)結果が、企業の価値や企業の存続そのものを左右するようなことは、あまりありません。わたくしが思い当たるのは二つです。
一つ目はJASTI監査。これは繊維業を担う企業がいわゆる「特定技能外国人」を受け入れる際の追加要件として、JASTI(Japanese Audit Standard for Textile Industry)と呼ばれる評価基準が経済産業省から示されたことによる監査です。
社労士としてこの監査を実施できるのは「JASTI 監査対応社労士」に限られます。社労士の新たな活躍分野といえますが、この制度については詳しく語れませんので割愛します。
二つ目はM&Aにあたって行われる労務デューデリジェンス(以下、労務DDと記載)。労務DDとは、企業の人事・労務管理の実態を調査・分析するプロセスです。労働に由来する潜在債務(簿外債務や偶発債務)を調査することと言い換えることもできます。
例えば簿外債務である未払い残業代が発見されると単に企業価値(売価)が下がるだけでなく、法務・会計・人事・レピュテーションの各面で多面的な影響が出ます。
顧問先企業がM&Aの当事者になることは滅多にないかもしれません。しかしながら労務DD的なアプローチは、その企業の労務の実態解明に大いに寄与するものと考えます。
M&Aの当事者ではないから労務DD的なアプローチは不要と思うのではなく、未払い残業代ほか隠れた問題点が我が社にもあるのではないかと考えて「労務コンプライアンス調査」を実施することをお勧めします。
文末に【図表6 労務コンプライアンス調査の提出資料(例)】をお示ししました。この表の出典は、2024年10月に「労務コンプライアンス」(副題は「チェックリストでわかる人事労務リスク対策」)を出版された「社会保険労務士法人みらいコンサルティング」のセミナー資料の一部です。
この本では、労務コンプライアンス調査は、特に初回は、網羅的に行うべきものとされおり【図表6】に示される提出資料も多岐にわたっています。本来は網羅的に行うべきではありますが「未払い残業代」の有無に絞ってチェックすることも有りだと思料します。
今日の記事は以上です。次回は「企業規模別労務監査的アプローチ 終了後その2 簡易労務監査シート(通算第20回)」です。